本研究の主な目的は、イラン、エジプト、シリアの3ヶ国の経済政策の個別検討と比較を通して、それらに共通な経済構造とそれを支える社会の枠組を明らかにすることにあった。 具体的には現代の中東諸国における経済政策をイラン、エジプト、シリアを例にとりながら、以上の二つの観点から検討することにより、中東地域が共通に抱える問題の根源を明らかにすることに主眼を置いた。この3ヶ国が位置する中東地域には、1972年のオイル・ショックで莫大なオイル・ダラーがもたらされ、一時的には産油国のみならず、周辺の非産油国もその石油収入の恩恵にあずかったが、それは一時的な経済ブームを巻き起こしたにとどまり、長期にわたる持続的、安定的な経済発展へとはつながらなかった。超大国にとっての最重要拠点の一つである中東地域は、その地域の自立や内発的発展の芽を絶えず摘み取られてきた。本研究で研究の対象とした3ヶ国は、東西冷戦構造下では、政治的、経済的に重要な戦略拠点とみなされ、つねに米ソ両大国の政策の影響にさらされた。それぞれの国が、時代と国際関係の変化によって、自由主義政策、社会主義政策、イスラーム政策といった政策を個々にとったが、いまだに開発主義の文脈でいうところの経済的発展や成功を収めてはいない。 したがって本研究ではその根源的原因を、中東地域の経済的構造の分析から始め、第二次世界大戦後の東西冷戦構造の中でとられた経済政策とそこではめこまれた枠組がいまなお影響を与えている点、1980年代以降の構造調整策の具体的内容とそれが社会全体にもたらした正負の効果、一向に改善されないばかりか、悪化すらしている庶民の日常の経済生活を支えている伝統的部門の経済活動とネットワーク等について考察した。
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