本研究の課題として私は、(1)東南アジア地域の国際分業体制-それはASEAN現地資本と多国籍企業との協力という形をとって現在急ピッチで進められている-の中でベトナムの占める位置を明らかにすること、および(2)AFTA加盟がベトナムよりも経済発展が進んでいる他のASEAN諸国からの製造品の急増を招き、ドイモイ政策の下で開放政策と輸出指向型工業化政策と矛盾するのかしないのかを明らかにすること、の2つのテーマを設定した。1997年はASEAN結成30周年という記念すべき年に当たり、ベトナムと他のASEAN諸国との経済関係は一層緊密化するものと予想されていた。が、7月2日のタイ・バ-ツ切り下げを契機とするアジア通貨危機とリセッシオンによりその予想は修正を余儀なくされて来ている。私は上記の研究課題に関して文献渉猟を行うことにより、(1)1986年にドイモイ政策を採用して以来初めてFDI(外国直接投資)が減少した、(2)また輸出(米や労働集約的製品が主力)が伸び悩んでいる、(3)FDIの減少と輸出の停滞とは経済成長の低下をもたらすに違いない、(4)従って、早急に対策を講ずる必要があることを明らかにした。次に、考えられる政策としては、1)輸出促進、2)投資環境の整備、3)サポ-ティング・インダストリーの育成、とりわけ4)ASEAN域内での広域産業ネットワークの形成と5)市場経済化の促進が挙げられるが、それらは本研究課題と密接に結び付いている。次年度は、そのインパクトが本格化すると考えられるアジア通貨危機に関する深い分析を基礎にして、上記のテーマへの接近を行う予定である。
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