本年度の研究活動を通じて得られた研究実績として、以下の事柄を挙げることができる。ベトナム経済は現在、ドイモイ(刷新)政策を1986年に採用して以来、最大の経済的困難に直面している。その主な原因として次の3点を挙げることが出来る。第1は、大規模な自然災害に見舞われたことである。1997年から98年にかけて中部ベトナムが早魃にそれとは対照的にメコンデルタは洪水に見舞われ、米をはじめとする農業生産に大打撃を与えた。第2は、改革の遅れなかでも国有企業改革と金融部門の改革の遅れ、法制度の未整備等が経済発展の強い桎梏になってきた。ベトナム共産等指導部の改革能力に対する不信や汚職・不正等に対する反発は、97年春にタイビン省で大規模な「集団訴願」を引き起こすまでになっている。最後に第3点として、アジア経済危機のベトナムへの影響を挙げなければならない。東アジアの経済発展(輸出指向型工業化政策[EOI])の「成長のエンジン」が(1)外資導入とそれによる(2)輸出拡大の2つにあるとは良く言われてきたことだが、97年から98年かけてベトナムへの外国直接投資は大幅に減少し輸出は停滞し、経済成長は低下傾向を示している。この経済的困難からの脱却の道をベトナムはASEAN域内経済協力の強化に求めていることが一層明らかになった。98年12月にハノイで開催された「第6回ASEANサミット」のホスト国であったベトナムは、(1)カンボジアのASEAN加盟に道を開く上で努力し(ASEAN10)、また(2)「ASEAN緊急経済対策」(大胆な政策)を取りまとめる上でも大きな役割を果たした。(2)の「大胆な政策」の主な内容はASEAN域内の貿易と投資の自由化を加速(AFTAとAIA[ASEAN投資地域]、AICO[ASEAN産業協力計画]の前倒し実施)することにある。ASEANをめぐる経済状況はなお流動的であり、上記のようなASEAN域内経済協力の強化が成功するかどうか、今後の展開を慎重に観察していく必要がある。
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