二年間(1997年・1998年)に渡る研究成果は、二つの主要論文にまとめられた。1. 「企業内労使交渉と料金規制」:本論文は、昨年度の「Strategic Labor Bargaining ofRegulated Firms」を発展させたものである。従来、労使間の利得分配は、労使交渉における交渉力の大小関係で説明されるのが一般的であった。しかし、公益事業のように料金規制が課されている被規制企業においては、規制の存在自体が利得分配に影響を与えることがわかった。具体的にいうと、被規制企業が私的情報を所有しており、かつ規制が機会主義的に実行されている場合、労働者の利得を犠牲にして経営者自身の利得を増加できる可能性が生じていることが、模型分析より明らかにされた。 2. 「中間財取引と公益事業規制」 :本論文は、公益事業の原材料購入・工場プラント建設などの中間財取引と公益事業規制の関係について、二つの具体的な研究課題とその研究成果をまとめている。第一の課題は、公益事業市場の経済厚生からみた望ましい中間財取引形態についてである。特に、中間財取引の効率的交渉形態と公益事業が中間財価格を先導的に設定できる場合(先導的価格設定形態)を比較検討している。公益事業が生産技術について私的情報を所有している場合、中間財取引において公益事業の交渉力が多少弱くとも、効率的交渉形態のほうが先導的価格設定形態よりも公益事業規制を通じて得られる経済厚生を拡大できることが、模型分析から論証された。第二の課題は、中間財取引の内部化あるいは委託の可能性についてである。公益事業市場の経済厚生からみて中間財取引の内部化が望ましいのは、(1)公益事業が実施するプロジェクトの規模が大きいとき、あるいは(2)関連事業の生産技術が良いとき、などであることが、模型分析から明らかにされた。
|