研究では戦間期、なかでも1930年代のGM社の城下町(ミシガン州フリント市)における工場職場史を黒人を中心とするマイノリティ現場層の行動に絞つて考察した。成果の大要は以下に整理できる。 1.白人・黒人労働者ともに労務管理者への信頼は30年代前半に萎える。集団ボーナス制度等の賃率計算の精緻化ヘの反発が一例である。現場層の多くは精緻化を職長の恣意の跋扈に利するものとみなし、不満を募らせた。経営陣への疑念は、30年代半ばの会社組合の衰微、後半のインダストリアル・ユニオニズムの隆盛、こうした労使関係の転換の遠景となつた。 2.ただし、現場労働者は一枚岩ではなかつた。彼らの行動規範では次の3方向が抽出された。(1)熱練性:熟練という権威は機械化に伴う実体の形骸化を経験しつつも、一定の現場編成能力を維持し続けた。(2)地域・職場生活経験:この経験に出来する集合性・職場規範も強まる。不況下に、地域・職場での面接性(直接の人的接触〉を基盤とする相互扶助が現場層で意義を高めたのである。(3)ラディカリズム:被雇用者としての水平性規範に訴える政治的ラディカリズムは、現場層の一角に深く染みわたつた。なお、不熟練労働者のうち白人の多くはこれらの諸規範を内面化せず、自己の外部にある諸権威とみたて、各権威間を右往左往する傾向が日立った。 3.不熟練労働者ではあるが黒人層は上の(2)の職場での面接性および相互扶助の気運を著しく高めた。これを足場に彼ら現場層は自己の職場に固着しつつそこでの技能形成と作業条件の改善とに尽力した。これは、勤労者としてきわめて理性的、倫理的な態度であり、熟練やラディカリズムの信奉者、また、経営陣からも高く評価され、1930年代末の黒人職場には労働条件の画期的な向上がもたらされた。
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