今年度は、チューダー・スチュワ-ト期のロンドン商人を研究する上で、重要な史料であるロンドンのマーサー組合、小間物商組合などのギルド史料と、ロンドン市内の職業構成を検討する上で基本となる教区薄冊とを購入し、この分析に着手した。この結果次のような諸点が明らかとなった (1)16世紀前半のロンドンの職業構成は、毛織物輸出がロンドンに集中するに伴い、繊維部門への集中がすすみ、単一産業都市的な傾向をみせた。この過程で、12大リヴァリカンパニ-が成立し、寡頭的体制とロンドンの職業序列=職能秩序も確立した。 (2)しかし16世紀後半には毛織物輸出の不況によって、ロンドンの職業は繊維部門への集中が崩れ均等化傾向をみせたが、寡頭的体制は維持されていた。 (3)17世紀に入ると、カンパニ-内部の分極化の進展、移住民の定着と郊外地域の拡大、新職業の増加などによって、職能秩序や営業規制が崩れ始め、特にマーサー、小間物商、毛織物商などの商業的なリヴァリ・カンパニ-では、上層商人層はどのカンパニ-に所属していようとも同様の利害を持つ商人となっていった。こうした職能の壁と秩序を破って共通の利害をもった商人は、ミドリング・ソ-トを形成するものといえる。 (4)以上のような、職能秩序の崩壊傾向とミドリング・ソ-トの形成は、ロンドン市内の同業者の地域的な集住をも崩すものであった。ロンドンには中世以来同業者が特定箇所に集住していたが、職能秩序の崩壊は、特に市の中心部の職業的な混合を顕著にし、職業よりは富による居住がみられるようになる。この点を中心に、論文を発表した。 (5)来年度は、この上にたって、ミドリング・ソ-トとしてのロンドン商人が、ピューリタン革命前にどのような政治的・経済的利害の同一性を形成していたかを検討したい。
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