本研究の目的は、第2次大戦前の日英合弁兵器鉄鋼会社・日本製鋼所の成立・発展過程を対象とし、出資者の英国側株主(ヴィッカーズ社及びアームストロング社)と北海道炭砿汽船(三井財閥傍系)及びバックアップした日本海軍の3者の同社への具体的関与のあり方を検討することを通じて、同社の経営史的特徴を解明することにある。 本年度は、日本製鋼所設立過程における3者の関わり方及び第1次大戦期における英国側株主の関与後退について考察し、それぞれ論文にまとめた(「研究発表」欄参照)。 日本製鋼所設立過程については、従来、設立事情は殆ど北炭側からの説明が中心であったが、設立に至る背景を20世紀初頭の日英同盟下の両国海軍及び兵器産業間の関係を既存研究を利用・整理しつつ検討して明確にし、その上で、設立事情を井上角五郎北炭専務らの製鉄業進出計画の具体的内容及び海軍兵器用製鋼工場設立計画への内容変更過程について詳しく吟味した。そのことにより、北炭とバックアップした政府・海軍の意図、英国2大総合兵器会社の意図と関与内容などをより具体的に明らかにし、しかも、その間には相互の思惑の「ずれ」が当初から存在していたこと、そのことは創立契約書等にも反映されていたことなどを示した。 次に、第1次大戦期については、日本製鋼所と英国側出資者両社との関係が大きく変容したこと、すなわち、「大戦景気」に日本製鋼所が飛躍的に発展するのと対照的に、英国側両社は自国をも含む欧州を戦場とする「大戦」への対応に追われ、日本製鋼所に対する関与は、技術援助面でも、トップマネジメントにおいても大きく後退せざるを得なかったことを具体的に提示した。
|