本年度は、羊毛工業をケースとして外貨割当政策の機能を実証的に分析した。第一に、羊毛輸入に対する外貨割当制度の変遷を、企業別割当方式に焦点をあててフォローした。最も大きな変化は1953年の改正であった。外貨危機に対処するため日本政府は輸出促進政策を採り、その一環として、各企業の輸出実績に対する外貨割当のリンク率が引き上げられるとともに、事前に各企業が提出した輸出計画の達成度に応じて追加的に外貨の割当が行われる制度が導入された。この改正は強い輸出促進効果を持ったが、その結果として外国の非難の対象となったため、1950年代半ば以降、徐々にリンク率の引き下げが行なわれた。第二に、羊毛輸入に対する外貨割当が、羊毛製品の輸出および羊毛工業の設備投資に与えた効果を、外貨割当が生み出したレントを変数に加えた輸出関数と投資関数を計測することを通じて数量的に分析した。今回の計測は、1953年度から1960年度までのパネル・データを用いて行い、外貨割当が生み出したレントが羊毛製品の輸出と羊毛紡績業の設備投資を促進したという結果を得た。輸出と設備投資が促進されたのは、企業別外貨割当が各企業の輸出実績と設備ストックを基準に行なわれたことによる。第三に、輸出と設備投資の促進以外の外貨割当制度の効果として、設備ストックにリンクした割当の結果、設備稼働率が企業間で平準化されたこと、および外貨獲得率(外貨獲得額/外貨使用額)を引き上げるインセンティブが企業に与えられたことが明らかになった。
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