本研究プロジェクトでは、第二次世界大戦後の日本で実施された外貨割当政策の仕組みと効果を実証的に分析した。外貨割当制度が戦後日本の産業政策の主要な手段とされたことはよく知られているが、資料上の制約もあってその仕組みと効果についてはほとんど研究されてこなかった。本研究で明らかになった主な論点は次の通りである。 第一に、制度的側面について、外貨予算の適用にあたって通産省が行った輸入発表の意味を明らかにした。輸入発表の主な役割は外貨資金割当基準の公表であり、これによって企業別の外貨割当が生産実績、輸出実績、輸入実績、設備能力など、何等かの客観的な基準に基づいて行われることが周知された。政策を客観的な基準に基づいて運営することが非生産的なレントシーキングを防止するために有効であることは近年の開発経済学の文献で強調されるようになったが、日本の外貨割当政策は1950年代からこのような方式で運営されていた。 第二に、企業別外貨割当が実際にどのような基準で行われていたかを、羊毛紡績業に関する企業別外貨割当データを用いて計量的に分析した。記述資料から羊毛紡績業に関する外貨割当基準が各企業の輸出実績と生産能力であったことを確認したうえで、各企業に対する外貨割当額を、これら2つの変数にクロスセクションで回帰した。1950年代のほとんどの半期について決定係数が95%を超えており、ほぼ完全に上記の2つの客観的変数によって外貨割当額が決まっていたことが明らかになった。 第三に、上の回帰分析によって得られたパラメータ、および羊毛の内外価格差から、輸出1単位当たりレント、設備1単位当たりレントを計算し、それぞれが輸出と設備投資に与えた影響を輸出関数と投資関数の計測を通じて分析した。その結果、外貨割当によって配分されたレントが輸出と投資を促進する効果を持っていたことが明らかになった。
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