研究概要 |
本研究の課題は、戦後日本の綿業をめぐる国際環境を、主として貿易関係におけるアジア間競争の観点から実証的に明らかにすることであった。「第二次大戦後日本綿業をめぐる国際環境」 (1997年11月刊)およびその英文版である“International Circumstancessurrounding the Postwar Japanese Cotton Textile Industry"(1999年3月刊)においては、主としてイギリスで収集した資料と日本の既存の研究をつきあわせることによって、1946-1960年の時期に、日本が再び最大の綿布輸出国として世界市場に君臨した過程を論じた。その要旨は、従来のようにこれを日米関係、あるいは日米英関係の中でのみ捉えるのでは不十分であり、日本綿業の技術革新や製品の高度化を最も直接に迫った要因は、冷戦体制と民族独立という大きな政治変動をくぐり抜けて、日本、中国、香港、インドの四カ国(地域)によって綿布の世界市場において演じられた激しいアジア間競争であった、というものである。それには、産業構造の高度化を強く志向し、そのためにはリストラを厭わない日本の産業政策や、イギリスの植民地香港が、ガットの志向する自由貿易体制を事実上極めて忠実に実行したことも、大きく貢献した。しかし、アジア間競争を激化させたより深い理由は、従来この四カ国が輸出していた低開発国の綿布市場が輸入代替工業化によって狭まっていった結果、保護主義に走る欧米市場も含めたグローバルな競争をするほかはなくなったこと、言い換えればこの四カ国に限らない広範なアジア、アフリカ諸国の工業化であったように思われる。 なお続編"East Asia in World Textile Trade,1960-1980"を、1998年11月に台湾の国際会議で報告した。できるだけ早く出版したいと考えている。
|