「11.研究発表」に示したように、今年度は課題に沿って組織的市場調整に関する1900年から1970年代までの概観を試みた。それはおおよそ次の通りである。1900年頃限定的業種の特定事業の協定あるいは地域的協定として出発した調整は、1920年代の長期不況期に重化学工業で広く実施されるようになり、1931年の重要産業統制法・工業組合法を機にあらゆる事業分野に拡大した。戦時・戦後統制期にはそうした調整組織が政府の資源配分計画に対応して、計画的生産・配給の実働機関と機能し、高度成長期の末期までそうした政府と民間組織の協力関係が活かされ、政府の需給見通しに沿った需給調整・投資調整が実施された。そして70年代末からこうした組織的市場調整を必要としてきた重化学工業自体が衰退産業化し、縮小均衡のための市場調整を経て、今日こうした政策が放棄されつつあることを指摘した。こうして重厚長大産業をリーディング産業とする場合に不可避的に生じる市場の組織的調整の歴史段階的変化を眺望することができた。 これと並行して、戦時統制経済下での重化学工業の計画化と実態を、種々の重要稀少資料を編集し、解説を付して刊行するという形で提示した。一つは太平洋戦争後半期の軍需省設置後の軍需関連産業動員政策に関するもので航空機・造船・石炭・鉄鋼・軽金属産業への資源集中政策の全体像を示すものである。もう一つは戦時経済統制開始直後の、計画と市場の関係を示す物資動員計画に関するもので、時局産業向けに物的資源、外貨(資材輸入許可)の集中政策が開始される過程を示した。
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