今年度は課題に沿って組織的市場調整について1930年代から戦後復興期を中心に分析した。 第一に、製紙業における市場調整であった。一般に30年代初頭王子・富士・樺太製紙の3社合併によって寡占的競争から独占的市場構造へと変質したといわれ、重要産業統制法指定によってその市場調整は一層組織的に行われるようになったとされている。しかし本研究では、実際は昭和恐慌期を通じて協定作業は常に紛糾したこと、度々小規模アウトサイダーによって協定が崩れるたこと、その調整は王子など大手の大幅な譲歩によってはじめて可能であったことなどを明らかにした。次いで戦時には原料パルプの輸入制限と割当制によって原料自給メーカーが有利に事業を維持したと一般にいわれるが、本研究では紙製品自体の高度化の中で、絶縁紙、コンデンサーペーパー、軍事用地図用紙、占領地紙幣用紙など、従来国内民間企業が手掛けながった特殊紙を生産する企業の急成長など、統制下での市場の高度化の側面を見いだした。復興期については、植民地森林資源喪失や、王子三菱の企業分割・再建整備問題の処理の遅れと、公定価格政策の硬直的運用によって生産復興が大幅に遅れたこと、この間小規模再生紙企業が一時的に市場を急拡大させたことなどを明らかにした。 第二に、戦時下の海運・造船業の市場調整、生産計画とその実績を明らかにした。一つには軍の船舶徴用による海運力の急速な低下に対処するため、海上輸送物資の調整・制限、配船の計画化によって船舶の節約調整など海運市場の組織的整備が進んだことを分析した。ついで物資動員計画の大型船向け鋼材割当の推移を追いながら戦時標準船による資材節約と船舶需要の調整を通じた計画造船の展開を分析した。 第三に、戦時経済総動員政策の根幹を担った物資動員計画関係資料を蒐集・編集し、解説を付して資料集を刊行した。従来の物資動員計画分析は計画の大枠部分のみを取り上げ、鋼材生産量とその陸海軍需・民需の配分比の変化から軍需偏重と経済バランスの喪失を指摘してきた。今回の悉皆的資料蒐集では、民需向け配当の更に下の個別産業レベルでの配当計画まで検討できる資料を可能な限り取り込んだ。これによって例えば民間用木造小型船部門への資材配当の変化から、太平洋戦争半ば以降急速にその重要性が増してくることなどが判明するようになった。 以上の研究成果発表に既に結びついている作業のほかに、通産官庁日高準之介氏が残した戦時・戦後の鉄鋼生産計画、敗戦直後の物資輸入計画、軍需産業の民需転換計画、経済自立諸計画の整理を行った。これはまもなく復興期の組織的市場調整の諸側面として分析し、発表することになる。
|