研究概要 |
本年度は,昨年の調査や海外での研究発表の成果をまとめるとともに,実施計画に記したような国際比較史的検討を進め,さらに戦前の経営管理の合理化運動との連続・非連続も含めた総合的な分析を行った。 まず,昨年の研究成果の公表については,とくに電機産業の生産性向上運動について,昨年度研究実績に記したような研究成果に新たな調査と再検討を加えて,所属研究機関の研究紀要に発表した。 第2に,国際比較史的検討では,(1)生産性運動のセンターの生成と役割,(2)戦前の合理化運動との連続と非連続,(3)組合の姿勢などについて検討した。まず生産性運動のセンターの生成と役割については,日本の生産性本部は,政府や財界の支援のもとに形成された。同本部は,戦前の組織が継承されたドイツや戦前の組織の影響下にあったオーストリアがかなり自律的運動を展開したのと異なり,また政府への依存度が強かったフランスとも異なり,政府・財界団体及び既存の関係諸団体と相互補完的システムを構築しながら運動を展開したといえる。 戦前の合理化運動との連続面についてみると,戦前・戦時中の科学的管理法の導入と普及の面で実績をもっていた人々が.戦後復興期のアメリカ式管理手法の再導入と生産性向上運動の展開過程でも指導的な役割を担ったことが確認された。そうした個人的能力の連続面と同様に.鉄鋼業の事例などから.戦前から企業内に蓄積された学習成果が新しい手法を導入する際の組織的能力として寄与したという面も確認された。 第3に,組合の姿勢の国際比較については,各国の諸労働団体は,その国際組織である世界労働組合連盟(WFTU)や国際自由労働組合連盟(ICFTU)の方針と連動するかたちで運動へのコミットメントをもったことが確認された。しかしながら,各国の組合の詳細な比較史的検討については.今後に残された課題となった。
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