本研究の課題は、真空管工業の企業間関係を実証的に明らかにすることであり、1997年度は、そのための資料収集、整理を中心におこなった。資料的には、東芝社史編纂資料の中から、真空管に関する技術契約などの資料をマイクロフィルムとして保存する作業を実施した。収集した資料は、現在分析中であり、とりあえず次の3点が新たな事実として指摘できよう。 それは第1に、1926年の時点で、東京電気と日本電気の間には相互の製品分野を侵害しない趣旨の協定が存在した。この協定は、主要外国真空管企業の間で締結されていた国際協定の趣旨を反映していた。第2に、この1926年協定によって、日本電気は真空管分野への参入を抑えられていた。そして、第3に、フィリップスのようなヨーロッパ企業も、国際協定によって、日本市場への参入を規制されたのである。 しかしながら、東京電気にも不利な条件があった。それは、東京電気が提携したGE社が真空管関係特許をRCA社に譲渡したことであり、東京電気は直接的にはRCA社との契約関係を持たないという変則的な事態となった。さらに、日本電気は1932年から真空管市場への参入を実行した。当面は東京電気との競合はなかったが、将来的には、東京電気の受信管市場での独占を脅かす行動であった。これらの変化が、東京電気の企業行動に与えた影響については、さらに来年度の本研究の検討課題としたい。
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