研究概要 |
1.研究の第1年目としてイギリス経済の衰退過程について文献目録を整理した。これにはイギリスおよび日本における研究の双方が含まれる。しかしまだこの分野についての調査は残されており、次年度にも継続的に調査、整理を行う予定である。というのは、イギリス経済の衰退を取り扱う範囲如何によって、文献は膨大になるからである。 2.イギリス経済衰退の時期と原因についてはさまざまな見解が存在する。第1は、衰退の時期と原因は相互に密接に関係する。衰退の時期を比較的早く見る説は、イギリス経済の衰退は1880年代にはじまるとする。この考えで行くと、農業、鉄鋼、機械、造船などの相対的国際競争力の低下がイギリス経済衰退の主因ということになる。第2に、戦間期にイギリス経済の衰退をとなえる説は、産業の衰退、とくに旧産業の衰退のみではなく新産業における立ち後れも顕著であった、と主張する。第3は、最近脚光を浴びているジェントルマン・キャピタリズム論である。これによれば、「工業」は衰退しても金融・商業・サービス業を軸とするイギリス「経済」は、戦間期になっても衰退していないという立場をとる。 3.上記の点はさまざまな資料によって、実証的に研究しなければならない。今年度は、とくに1920年代の′Economist′,′The Times Trade and Engineering Supplement′の記事を克明に分析することによって一部実証しつつある。 4.個別産業、個別企業レベルでの研究はまだ不十分であるが、鉄道業についてはとくに輸送問題を中心に衰退の問題を検討した。鉄道会社の経営そのものの中に衰退を醸成する要因をはらんでいたのである。
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