本年度は、諸井恒平にかかわる基本的な資料の整理と収集に重点を置いた。まず、諸井が1885年から1941年までほとんど休まずに記していた『諸井恒平日誌』の解読をアルバイトを利用しながら進めた。当初は、『日誌』をすべて解読しようと思っていたが、作業を進めていくうちに、量が膨大でしかも解読がかなり困難なため、とても3年間という限られた期間ではすべてを解読できないということがわかり、重点的に解読を進めることにした。『日誌』の不備は、諸井家及び埼玉県立文書館などの機関が所蔵する資料で補うことにした。 資料調査は、諸井家、埼玉県立文書館のほか、福島県立図書館、猪苗代水力発電所、山梨県立図書館、山梨県庁、山梨県史編纂室、長野県立図書館などに及んだ。また、国立国会図書館では『大日本窯業協会雑誌』の煉瓦・セメント業関係の記事を収集し、『東京経済雑誌』『東洋経済新報』『ダイヤモンド』などの雑誌からも諸井が関係した企業や産業関係の資料を収集した。雑誌記事の収集は、さらに継続する必要があるが、かなり興味深い資料を収集することができた。書籍についても、日本工業倶楽部関係のものも含めて貴重なものを購入することができた。 諸井恒平は、日本煉瓦製造、秩父鉄道、秩父セメント、武蔵水電、旧西武鉄道、帝国電灯、東京大宮電鉄、小倉石油などの諸企業の経営に携わった地方企業家である。しかも、諸井は単なる地方企業家にとどまらず、日本工業倶楽部の理事を務めるなど旺盛な財界活動をも展開し、渋沢栄一の思想的影響を強く受けた企業家の一人でもあった。そのため、資料調査の範囲も多岐にわたったが、今後もできる限り諸井関係資料は収集していかなければならない。
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