本年度は、『諸井日記』の解読を進めるとともに、諸井恒平が営んできた事業に関する若干の補充調査を行った。諸井恒平の企業家活動は、煉瓦製造事業、鉄道事業及びセメント製造事業を中心に展開されていた。諸井恒平が取り組んだこれらの事業は、それぞれ日本煉瓦、上武(秩父)鉄道及び秩父セメントという企業を通じて営まれた。恒平は、埼玉県を事業基盤として企業家活動を展開したのであるが、これらの事業はその代表的なものであり、それぞれが有機的に結合していた。すなわち、恒平は日本煉瓦の経営の中で輸送問題の重要性を認識し、その後上武鉄道の経営に入っていった。そして、それは恒平がセメント事業への参入を考えるようになるのとほぼ同じ時期であった。セメント事業に参入して、秩父セメントを設立してからは秩父鉄道がセメントの輸送手段として重要な役割を果たすことになったのである。第二次大戦後、恒平が育てたこれらの事業は、秩父セメントを中核とする秩父セメントグループの事業として発展した。 しかし、諸井恒平の企業家としての活動はこれだけにとどまらなかった。恒平は武蔵水電・帝国電灯などの電灯事業、西武鉄道・東京大宮電気鉄道などの鉄道事業にも関係した。また、日本工業倶楽部の設立にも尽力した。 本年度は、こうした諸井恒平の企業家活動に関する成果報告書の執筆に全力を注いだ。
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