国から地方への移転のうちで現在最も重要な位置を占めると思われる地方交付税交付金の使途について個票を用いた詳細な研究を行った。具体的には、個別地方団体の歳出決算額と交付税制度上算定されている基準財政需要額を歳出項目別に対比させることによって、交付税の想定通り支出されているか否かの検証を実証的に行った。その結果、暫定的な結論であるが、当該地方公共団体が位置する地域により歳出構造が大きく異なるとの興味あるファクト・ファインディングが得られた。これらの結論は、今のところ、実証研究の対象とした地方公共団体および対象とした歳出費目についてのみいえることであるが以下のようになる。つまり、日本の平均的な地域にある地方公共団体の歳出が比較的基準財政需要額の算定通り行われているのに対し、都市部あるいは地方部にある地方公共団体の歳出は基準財政需要額の算定以上に大きい。 前者の都市部については、現状からみて理解がたやすい。それは、交付税が交付されない不交付団体では交付税制度上の「超過財源」を有しているからであり、この部分の財源が投入されているからである。しかし、財源が縮小した今日では、このような歳出パターンが大幅な財源不足の大きな要因になっている。一方、後者についてはそれほど簡単ではない。考えられる技術的な要因は、起債率の違い、補助率の差異および全体としての財政状況の差であり、より本質的な要因は地方公共団体の供給する公共支出に対する地域住民の選好であるが、これらがどの程度のウェイトでこれらの地域にある地方公共団体の歳出パターンを説明できるのかは今後の課題である。また、もう一つの課題は、研究対象とした地方公共団体の歳出構造の差異が先に述べた地域特性以外にどのような要因により規定されているかにある。
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