本年度は、昨年度の研究成果を踏まえながら動学的な銀行準備の積み調整モデルを定式化して数値シミュレーションによる比較動学分析を試みるとともに、日銀型金融調節の政策上の功罪をさらに掘り下げて検討し、それらの成果を論文としてまとめる予定であった。 定式化のポイントは、銀行準備の積みの調整費用と資金繰りの予想形成を組み込んだ銀行の最適な準備の調整行動を如何に定式化するかであったが、第一次近似として短期金利の予想形成を「適応的な予想形成」を採用したad hocな形の積み調整行動を前提にして数値シミュレーションを行った。その結果、予想短期金利の調整速度の大きさや準備需要の金利反応度によっては、積み最終日に均衡が達成されない可能性があり、一般に、予想短期金利の調整が緩慢なほど、準備需要の短期金利反応度が小さいほど、金利誘導が成功することが分かった。 次に、日銀の金利誘導型金融調節を広い意味で金利平準化政策とみなし、その功罪を、銀行が負担する金利リスクに注目して分析を行った。その結果、金利平準化は、銀行の金利リスクの負担軽減と政策情報のシグナル効果により、貸出供給の短期金利反応度を高めることを通じて政策の有効性を高める効果を持つことが分かった。 以上、幾つかの興味深い知見が得られているが、依然として銀行準備の動学的な積み調整行動の定式化が不充分であり、結論は必ずしも満足すべきものとは言いがたい。更には、最近内外から、不況対策として現行の金利誘導型金融調節が批判にさらされており、これらの論点を反映させながら金利誘導方式の功罪を包括的に検討する必要があり、現在、こうした不充分な点を補うべく研究を進めている。
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