研究概要 |
これまでの理論的・実証的な研究から、日本企業とそのメンバー達は、ゲーム理論、決定理論、近代組織論といった理論では説明のつけられない行動をとっていることがわかってきた。有力な仮説としては、これまでの意思決定原理とは系統の異なる「未来傾斜原理」に則って行動していることが考えられる。これは、過去の実績や現在の損得勘定よりも、未来の実現に寄り掛かって意志決定を行う原理で、拙稿「意思決定原理と日本企業」「未来傾斜システムとホワイトカラーの働き方」で議論している。拙著『日本企業の意志決定原理』では、この意志決定原理がさまざまに形を変えて、われわれの目の前に姿を現していることを示した。さらに、拙稿「日本の多国籍企業の組織文化と終身コミットメント」で試みられた国際比較の実証研究を基礎に、拙編著『組織文化の経営学』では、日本的経営論の中で繰り返し指摘されてきた終身コミットメントとの関連も明らかにしている。 こうした経緯から、現在は生態学的モデルと組織学習モデルを融合しながら、組織間関係の形成過程の分析を試みている。これまで組織変化に関する研究は適応と淘汰という二つの対立する見方で行われてきており、確かに学習と進化は本質的に異なる過程なのだが、適応と淘汰は対立する見方ではないし、適用可能領域が異なる相互に排他的な代替案でもない。適応と淘汰はむしろ基本的に相互依存的な過程なのである。淘汰過程の基礎である組織慣性と適応的な学習とは対立する概念と考えられがちだが、実は、Marchらの研究によれば、組織学習は組織慣性の一因となるし、組織慣性は適応的学習の必要条件となるのである。そのことは組織生態学分野でHannan,Freeman,Carrollの研究で明らかになった経験的事実とも合致していることが分かってきている。
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