この研究計画では、生態学的なシミュレーションを使って、さまざまな角度から組織現象の分析を試みている。 まず、組織学習を組織内エコロジーとして定式化したJ.G.Marchのシミュレーション・モデルの欠陥と結論の誤りを指摘しつつ、これを再構築している。組織学習とは組織内エコロジーによる組織の適応プロセスであり、組織学習のパフォーマンス向上のためには、組織ルーチンの持続性がある程度必要なのである。同時に、主要研究を、組織学習とはどんな組織プロセスなのか、学習するのが個人ではなくて組織であるとは何を意味しているのかといった観点から整理を試み、組織ルーチンは、個人の手続的記憶を要素としたシステムで、この個人記憶が置き換えられても、要素間の関係パターンについては持続性が生き残り続けるような性質をもっていることを明らかにしている。 さらに、複雑系(complexity)の分野を象徴するエージェント・ベースド・シミュレーション(agent-based simulation)を使った分析が試みられる。ここでいうエージェントとは、ユーザの設定したルールに基づいてコンピュータ上で行動する主体を指している。マルチ・エージェント型ではエージェントが複数いて、そのエージェント同士が互いに影響を与え合うことになるので、ルール自体は簡単なものでも、個別エージェントの行動を積み上げた全体では予測できない複雑な動きをすることになる。この研究では、エージェントがより多くの「アイデア」とコミュニケートできるようなポジションを求めて競争する「コミュニケーショイ競争モデル」を開発し、クラスターがどのように形成されるのかをシミュレーションで分析する。イノベーションの分野でよく言及されるT.Allenのゲートキーパーに対応した「大きな」エージェントの機能については特に詳しく調べている。
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