フランスにおける大企業の所有構造の特質は同族企業が多いことである。したがって企業間関係はこれら同族企業と株式が広く分散している大企業とでは異なる。前者においては銀行を含めて他企業との永続的な間関係は少ない。企業統治は所有と支配の分離がないため、有効である。これに対して後者においては持ち合い、役員相互派遣、議決権行使限度、持株会社による敵対的企業買収の防止策を通じて経営者支配が一般的である。したがってこれらの大企業においては企業統治は有効でない。フランスにおける貯蓄銀行は日本とドイツにおける主取引銀行の役割は果たさず、取引先企業に対しては中立的である。この点でフランスの銀行はアメリカ、イギリスのそれに近似すると言える。したがってフランスの銀行は取引先企業が経営不振に陥ってもこれを救済することはない。また役員相互派遣も少ない。しかし投資銀行は多数の企業の持ち株を有する。この投資銀行の中でパリバとスエズが最も大きい。いずれも持株会社がすべての投資先企業を支配する。持株会社の役割は基本的な戦略の策定、中核企業の経営者の選任、評価、資金の運用と調達、管理、法務、広報などを統括する。フランスの企業間関係の他の特質は政府主導による大企業間の企業間関係の確立である。これは1981年の国有化実施以降、再び民有化された大企業を外国資本による敵対的企業買収から防衛するためにとられた措置である。したがってフランスの国家資本主義の性格が大企業の企業統治の有効性を低めていると言える。
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