フランス大企業の企業間関係と企業統治を解明するためには、まず所有構造を考察する必要がある。フランスの大企業は創業者とその同族が支配的株式を所有する同族企業と、支配的株式を所有する株主が存在しない株式分散企業と、1982年に国有化され、その後民有化された企業、の三種の所有構造に分類できる。いずれの類型の大企業にとっても、経営者の最重要の関心事の一つは敵対的企業買収の防止であり、それによる経営方針の一貫性と経営者の地位安定である。同族企業の場合この目的実現の第一の手段が株式が公開されない非上場持株会社の設立である。第二は株式合資会社の設立、第三は同族株主の所有株式に対する複数議決権、第四は所有株式数いかんにかかわらずその議決権を一定限度に制限する議決権行使限度設定である。株式分散企業において取られる敵対的企業買収の防止手段は第一に友好企業にある程度まとまった株式を取得させ、株式を安定化することである。 この場合持ち合いが行われることが多い。第二は複数議決権、第三は議決権行使限度の設定、第四は自己所有の株式により自己支配を実現する手段で、子会社が親会社の株式を取得することにより可能である。1982年に国有化され、その後民有化された企業はいずれもフランスを代表する大企業であり、フランス政府は外国資本による企業買収を阻止するため安定株主工作を実施した。これらはパリバ、ソシエテ・ジェネラルのニ金融機関および保険会社AXAを中心とする企業集団、BNPおよびCredit agricoleのニ銀行を中心とする企業集団、そして保健会社AXA-UAPを中心とする企業集団である。しかしこのような閉鎖的な企業間関係は、企業経営の効率性を低める大きな要因と理解され、1995年発表の13人の経営者により起算された企業統治の改善策の一つとして持ち合い廃止が提案されている。ヨーロッパの市場統合、通貨統合、さらにグローバリゼーションを前にして、日本の企業間関係と酷似したフランスのそれも大きな変革を迫られており、その動向は、わが国にとっても参考になる。
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