企業間関係の視点から、フランス資本主義の特質はアングロ・サクソン資本主義とドイツ・日本のいわゆるライン資本主義の中間に位置することにある。フランスがドイツ・日本と共有する企業間関係の特質は敵対的買収防止のための安定株主の存在およびこれらとの間の株式持ち合い、その結果としての企業支配市場の未発達である。またこれによる証券市場における低水準の流動性、透明性、効率性も共通点である。このためフランス大企業の企業統治の有効性も日本、ドイツと同様にアメリカに比較して低い。 フランスがドイツ・日本と最も大きく異る点は経営破綻時の救済機能を発揮する主取引銀行が存在しないことである。その背景は第一に大企業の経営破綻時における救済措置および規模・範囲拡大のための資金提供は国の経済計画および産業政策の一環として政府が直接に企業に実施してきたからである。第二にユニバーサル銀行の歴史は浅く、ドイツにおけるほど銀行・産業関係は緊密化しなかった。したがって、パリバおよびスエズの両投資銀行を除けば、フランスの銀行はアメリカのそれと同様に取引企業に対して中立的であり、その役割は敵対的企業買収防止のための持ち株および長期的取引関係に限定される。保険会社も同様の役割を有する。 ヨーロッパ連合における市場統合の実現、単一通貨の導入および米英の機関投資家の持ち株増大およびグローバル化によりフランスは日本よりも早期に国際競争にさらされてきた。したがってアングロサクソン的な企業統治への関心も高く、その実効性も向上しつつある。しかしフランス資本主義がアメリカ資本主義へ収斂する可能性は部分的にとどまると予測される。その根拠は第一にフランスの銀行・大企業間の株式の持ち合いおよび同族支配により、敵対的企業買収が可能な企業が少ないからである。第二にフランス大企業における最高経営責任者には上級官僚出身が多く、これらの間の結束力は堅く、取締役会役員の相互派遣により彼らの地位を脅かす敵対的企業買収を阻止しうるからである。
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