本研究はアウトソーシングへの転換を念頭に置いた外注・内製戦略に関する理論モデルの構築・解析とその実証分析から成っている。理論研究に関しては、外注への転換と情報の非対称姓という観点から、当該企業と外注先との間のエージェンシー契約モデルを構築し、外注率、外注先の費用削減投資水準、外注先へのマージン等を内容とする最適契約について分析した。外注先に私的情報に関する報告をさせ、その報告を条件とするコンティンジェント契約を事前に締結するという状況を想定し、敢えて虚偽の報告をするインセンティブを外注先に与えないという制約の下での最適コンティンジェント契約を解析的に特徴づけた。また、情報が対称であり、外注先の報告が必要ない場合の契約との比較により、非対称な情報構造がもたらす非効率についても評価した。 実証分析に関しては、先ず、アウトソーシングに熱心な企業数社の購買・調達担当者に対して面接調査を実施し、外注への転換の経緯とそのメリット及びデメリット、外注・内製戦略に影響する諸要因とそれらの間の重みづけに関する定性的仮説を検討した。その上で、事業所ベースの質問票調査によって外注・内製戦略とその影響要因に関する測定データを収集した。アウトソーシングに積極的な企業も消極的企業も含め、事業所の責任者から、製造、購買・調達、品質管理、生産技術、経理、情報システム等の担当者まで幅広く回答を依頼し、これらの諸職能が扱う多様な変数とアウトソーシングとの関係が分析できるデータベースを構築した。また、データの信頼性や妥当性が確保されるように、主観の入る質問項目についてはなるべく多数の事業所関係者から回答を得るように努めた。特に、日本企業を対象とした調査データを用いて分析した生産情報システムや品質管理との関わりについては成果の一部を公表している。
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