近年、企業の事業活動と証券投資のグローバル化が進展し、また、IOSCO(証券取引者国際機構)とIASC(国際会計基準委員会)の合意に基づくIAS(国際会計基準)の世界標準化の動きを背景に、会計制度を英米流の資本市場指向型へと再編、再構築するという、いわゆる「会計基準の国際的調和化」が国際的規模で進行している、しかし、こうした動向をもって、会計制度が資本市場ないし投資家の意思決定に資するものとしてのみ転換していると単純に捉えて良いのだろうか。会計制度は上の目的に対する情報開示のためだけでなく、税や配当等の諸経済現象の成立に合意を与える社会的合意のシステムとして過去、大きな存在理由を示してきたし、会計制度が各国の合意形成の在り方に応じてそれぞれ特有の「型」を有しているのもそのためである。 本研究は、かかる問題意識にたって、現在、世界的規模で進行する会計制度の資本市場指向の改革動向に対して、その改革を通じて、各国の会計制度がどう組み直され、また、社会的合意のシステムとしてどう再構成されようとしているのか、この点をドイツの商法会計を素材に、わが国の会計制度改革との比較研究を射程に入れながら検討している。ここでは、ドイツが、税や配当等の決定基礎として、過去の歴史的所産として形成されてきた固有のドイツ型の商法会計制度を個別会計レベルで保持していること、また他方において、連結会計レベルでは、英米流の資本市場指向の会計を導入するという商法改正を行いながら、国際的コンセンサスを得る上での戦略的適応をしていることを明らかにしている。本研究を通じて、社会的施設としての改正制度の再構築に必ずしも明確な政策を有していないと考えられるわが国の改革動向に一定の比較論的、批判的見解を明らかにしている。
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