現行の会計制度は、財務諸表の本体を取得原価主義で作成し、資産・負債の時価評価額を注記情報として提供している点に着目し、次の3種類の時価情報が東京証券取引所での株価形成に反映されているか否かを実証的に分析したところ、それぞれ次の点が明らかなった。(1)1997年3月決算期から開示の充実が図られたデリバティブ会計情報をとりあげ、東証一部上場の銀行100社をサンプルとして、デリバティブの時価評価損益および契約額と、株価水準の相関関係を調査したところ、評価損益は金額が僅少なため統計的に有意な関係は見られなかったが、デリバティブの契約額が大きい銀行ほど株価が高いことが判明した。(2)1992年から1996年の地価税の納税額が上位100位内の企業をサンプルとして、財務諸表に注記されている保有有価証券の未実現損益、および地価税の納税額から推定した保有土地の未実現損益と株価水準の相関関係を調査したところ、有価証券と土地の両方について、未実現利益が大きい企業ほど株価も高いという強力な関係の存在が証拠づけられた。(3)企業年金制度に関連する母体企業の年金給付債務とその財源資産の時価評価額に注目し、企業年金会計について先進的な処理を求めるSEC基準で連結財務諸表を作成する日本企業24社の1990年から1997年の注記情報をサンプルとして、東証で形成される株価水準との相関関係を調査したところ、注記された年金債務額が大きい企業ほど株価が低く、財源資産の時価評価額が大きい企業ほど株価が高いという統計的に有意な関係が存在することが明らかになった。
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