1998年3月決算期から、銀行のディスクロージャーが大幅に拡充され、実証分析のためのデータが入手しやすくなったので、本年度は銀行が保有する有価証券とデリバティブの時価評価額を中心として、株価形成との関連性を実証的に分析した。研究上の発見事項は次のとおりである。 1.貸借対照表から導出される1株当たり純資産額が大きいほど、株価も高いという関係を所与としても、銀行が保有する有価証券の評価益およびデリバティブの評価益が大きい銀行ほど、株価もよりいっそう高く形成されているという形で、これらの時価情報は株価形成に反映されている。 2.銀行に関する限り、取引所上場デリバティブより店頭相対取引デリバティブの方が、評価損益が著しく大きく、また原資産別に見た場合、金利関連のデリバティブの評価損益が圧倒的に重要である。この現実とも首尾一貫して、とくに金利スワップの評価損益が統計的に有意な形で株価水準に反映されている。 3.デリバティブの評価益が大きいほど株価も高いという関係を所与としても、デリバティブの契約額や想定元本が大きいほど株価もよりいっそう高いという追加的な関係が存在する。したがって市場はデリバティブ取引への関与を、手数料収入の増加やノウハウの蓄積などを考慮してプラスに評価していると思われる。 なお本研究は、株価水準と時価評価額の有意な関連性を発見したものであるが、株価変化率と時価変化分の間の関連性までは調査が及んでいない。損益計算書情報の重要性からみて、フロー情報の実証的関連性の有無が、今後の重要な研究テーマとして残されている。
|