本年の研究は次のとおりである。 (1) 会計制度の国際比較に関する方法論上の議論を途上国や移行経済国にまで拡張して考察した。会計制度の相違を会計環境の相違に求める場合に、先進諸国に関する研究から抽出された会計環境要因では途上国や移行経済国の会計制度の在り方を説明できない。これらの国における会計と会計環境要因との関係を明らかにしようとするならば、会計環境要因として経済社会の内的構造のみではなく、外部から市場経済を持ち込ませる要因(経済改革や先進国へのキャッチ・アップのための国家の政策)と内的構造との関係の分析が必要である。当該視点に関しては、1999年3月13日に開催される国際公会計学会の日中会計制度の比較に関するパネル・ディスカッションにおいて発表予定である。 (2) 日本企業の自発的な国際会計基準先取り行動をアンケート調査を通じて分析した。 日本企業の国際会計基準への対応を調査するために、1998年6月-8月において、退職給付会計に関するアンケート調査を東証・大証の一部上場企業に対して行った。1998年6月に企業会計審議会から退職給付会計に関する意見書が公表されたために、必ずしも国際会計基準への対応とはならず、調査の意図を変更せざるを得なかったが、2年間の猶予期間(あるいはそれ以前)にもかかわらず多くの企業がPBOの算定を行った事実が明らかとなった。 (3) 財務諸表数値の比較可能性の問題を考察した。測定属性値を取得原価に固定した場合の会計測定値の比較可能性の問題をベースとして、測定属性値を操作した場合の比較可能性の属性値間の比較可能性の程度の差を考察した。その結果、比較可能性という視点のみから見れば、取得原価は、同一の状態を異なった測定値としたり、逆に異なる状態に対して同一の測定値をもたらすケースがあり、問題があることが明らかとなった。
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