科学研究費補助金の交付を受けた期間において、会計の比較方法に関して以下のような成果があった。 国によって会計の何がどのように相違しているのかを析出するという課題に対して、会計の何がどのように相違しているのかという分析から出発し、会計ルールの分析では明らかにすることができない「実際に行われている会計」における相違への接近を試みた。 まず、「何がどのように相違しているか」という課題に関しては、会計ルールに関して、(1)認められている会計方法、(2)認められている形式的弾力性(選択肢)、および(3)認められている実質的弾力性(利益可変領域の大きさ)において国による相違が観察できる。また、会計実務に関して、(4)ルールの遵守度、(5)ルールの利用度、(6)会計方法選択、および(7)会計ルールの使われ方、において相違を確認することができた。 次に、上記の分析を一歩進めて、「どの程度相違しているか」という課題に取り組んだ。項目ごとの会計ルールの文言や実際の処理をどのように詳細に調べてみても、それらの総合的帰結としての資本・利益数値がどの程度相違しているのかは知ることができないため、2つの方法を用いて解明を試みた。(1)実際に各国の企業が作成した会計データを用いて行う方法と(2)一定の取引モデルを設定しそれを各国の会計制度の枠内でシミュレートして相違を浮き彫りにする方法である。前者に関しては、日米企業の会計データを材料として、日米企業が同一の会計方法を用いて利益計算を行った場合の利益数値と日米で実際に計算された利益数値との比較を行った。このような比較をとおして、これまで、「保守的である」あるいは「非常に保守的である」と叙述的に説明されてきたものが、例えば、平均的米国企業が利益数値を100計算する場合に、平均的日本企業は80と計算するというように定量化(指標化)されることによって、より精緻な比較が可能となった。
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