本研究では、まず阪神大震災ごの株価下落を一般的に分析し、次に、その下落を適時開示との関連で分析する。後者が主要テーマである。平成9年度はこのうち前半部分を完成し、査読誌投稿し、改定を経て受理された。また、後半部分のデータ整備を進めた。受理された査読論文の概要は次のとおりである。 表題「阪神大震災における適時開示と株式市場の調整」(Timely Disclosure and the Adjustment of Stock Market on the Kobe Quake) 要旨:本稿では1995年1月17日早朝に起きた阪神大震災を取り上げ、そこでの被災企業の株価変動と開示情報を分析する。まず、阪神大震災後、株価が乱高下し、その後ほぼ安定に向かうまでの期間を特定する。次に、この間、どの程度の企業が被害情報を開示したかを明らかにし企業の適時開示行動を評価する分析結果は次のとおりである。震災直後、被災企業の株価は下げた。しかし同時に市場指数もほぼ同水準の下げを記録した。超過収益率に顕著な動きが現れ始めたのは、震災後1週間以上経過した市況反転時であった。このとき、被災企業は、過剰反応からの反転が市場全体の反転よりも小さく、株式市場は被災に的確に反応していた。被災企業の超過収益率の動きをみると、市場が震災を評価するのに震災後3週間弱かかっていた。収益率がほぼ安定した震災3週間経過以降の時点での開示は適時性の観点からみて遅いと考えると、大阪証券取引所で1995年1月17日から5月31日までに開示した被災企業134社の252件の開示情報のうち約30%にあたる77件のみが3か月以内の「適時」な開示であり、残りの約70%の開示は遅きに失したといえる。他方、超過収益率の標準偏差の変化をみると、震災後のほぼ3週間はきわめて高い。ここでも、震災後3週間の開示の重要性が裏付けられる。ただ。水準変化の場合とは異なり、標準偏差の変化はその後も震災前よりも高い状態が続いている。3週間経過後も市場はなお安定を取り戻していないのである。そこで改めて水準変化をみると、超過収益率は2月27日から7月31日までマイナスを記録している。これらを合わせ考えると、3週間経過後の被害の適時開示になお存在意義があったといえる。
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