今年度は、楕円曲線を中心に代数曲線の有理点の研究をおこなった。楕円曲線としては特に、合同数問題と深く関連するある楕円曲線を例に取り上げ、そのセルマー群を考察した。このセルマー群は2-descentと呼ばれる、楕円曲線論では標準的な方法において現れる群であり、基本的かつ重要なものである。この群は古くから多くの人々により研究されてきたが、その位数を与える一般的な公式を与える文献は存在しないようである。本研究において、その一般的な公式を求めることに成功した。その証明において、二つの事柄が重要な役割を演じた。一つは、局所体上の有理点の研究である。一般に、局所体上の楕円曲線の有理点のなす群は、ある形式群を指数有限な部分群としてもつ。さらに、その楕円曲線が加法的な悪い還元を持つとき、その部分群による剰余群は比較的単純な構造を持つ。この事実を利用して、本研究で取り上げた楕円曲線に対し、その悪い素点における局所体上の有理点を完全に決定することができた。もう一つは、カッセルズ対の計算である。一般には、テイト・シャファレヴィッチ群全体においてのカッセルズ対の計算は容易ではない。本研究では、カッセルズ対は、テイト・シャファレヴィッチ群のある部分群に制限すると、比較的簡単に計算可能になることを示した。これら二つの事柄を合わせて、セルマー群の位数を具体的に計算する公式を導いた。また、その応用として、セルマー群の位数に関するパリティー予想を考察した。
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