研究概要 |
リーマン多様体上のベクトル場の共変微分は,リッカチ微分方程式を満たす.このことに注目して,行列値リッカチ微分方程式の解の性質から,リーマン多様体の構造やベクトル場の性質を研究することが目標であった.本年度は,特に,行列値リッカチ微分方程式の新しい活用法を探ることを中心として研究した. 1.境界のついたリーマン多様体をいくつか貼り合わせた多様体は,リーマン多様体の収束や物体の表面,滑らかなリーマン多様体の研究の直感的例として現れる.このような空間を正確に定義して,その空間上の測地線の集合から生じる変分ベクトル場がどのように振る舞うかという研究を始めた.各滑らかな部分では通常のヤコビベクトル場であるが,境界を越え隣の部分に入る際に,適当な意味で連続となっているが,1階微分は連続にならない.どのように変化するかを明らかにした.これを用いれば,今まで知られているリーマン多様体上の測地線の幾何をこの空間上でも平行的に展開できるであろう. 2.完備リーマン多様体上の共円ベクトル場の存在とワープド積構造の間の関係は,1965年に田代(元広島大学)によって明らかにされたが,その応用は,あまりなされていない.最近,酒井(岡山大学)は,勾配ベクトルの大きさが一定である関数を許容するリーマン多様体の構造を研究している.この場合は,勾配ベクトル場の積分曲線は,測地線になってしまうので球面等は考察の対象外になってしまう.勾配ベクトル場の大きさ一定という仮定を取り除いて共円ベクトル場を特徴付ける性質をいくつか見いだした.
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