Cを平面凸曲線とする。この内部を等速直線運動をし境界において入射角=反射角なる規則で進む質点の軌道を研究するのがビリヤード問題である。ビリヤード問題の記述法として、状相空間のビリヤード写像を用いることがある。このとき、状相空間が積分可能ならば、Cは円か楕円に限るであろうというバーコフ予想がある。円をモデルとした部分解は1993年にビアリーによって与えられ、その別証明、非正曲率版、及び、高次元版は本年度に印南の業績として発表された。本年度の研究において、楕円をモデルとした部分解を得ることに成功した。すなわち、状相空間の各点にスロープ(回転指数)を定義し、そのスロープが1/2となる点の集合を除いた部分が、状相空間において可縮でないビリヤード写像で不変な閉曲線によって層化されるならば楕円である。この仮定の下で、この結果は、コウスチックと呼ばれる閉凸曲線がCの直径上の線分に収束する事によって示されるが、これは、配位空間での測地線の幾何、特に、平行線の理論を展開することによって実行される。 また、トーラス上の測地線の族の性質から、フラットトーラスと円、回転トーラスと楕円が対応している。フラットトーラスや回転トーラス上の測地線の族が持っている性質をビリヤード軌道の族の性質に翻訳して、円や楕円を特徴づける性質を見つけ出すことにも成功した。 本年度の成果は、バーコフ予想の解決に近づいたことである。また、ポールを持つ2次元トーラスは回転面に限るかどうかが新しくでてきた研究課題である。これは、共役点を持たない2次元トーラス上のリーマン計量に関するホップフの定理の1つの拡張の問題である。
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