本研究の目的は、拡大性や擬軌道追跡性の様な性質を持つ離散力学系の理論的研究を行い、多くの力学系の振る舞いを理解する上で必要となる位相的理論を構築することである。この研究目的達成のために、拡大性と擬軌道追跡性を持つ同相写像(Anosov微分同相写像)の分類、そして、コンパクト多様体の上の既約変換の力学系と拡大性との間の関係、の二つの問題を中心に据え、研究を進めている。 特に本年度は、昨年度得られた結果(n次元球面上の拡大的同相写像の非存在)の証明方法を、一般の離散力学系のアトラクターの位相に関連する問題に適応し、幾つかの結果を得ることが出来た。これらの結果は、良く知られたヘノンアトラクターの非双曲性と関連しており、更に一般次元の場合も扱っているので、大きな前進が得られたと思われる。また、Infra Nilmanifoldの双曲型自己同型写像とホモトープな拡大的同相写像の線形化問題についての昨年度の結果を、以前本研究者によって得られた2次元曲面の拡大的同相写像の分類の高次元版へと発展させることが出来た。更に、本年度に解決を目指していた高い余次元のAnosov微分同相写像の分類の問題について多くの考察を行い、問題の解決にはまだ至っていない状態であるが、どのように扱ったら良いかの大きな前進が得られ、本研究の目的達成の為の大きな前進となった。以上の研究成果については、研究集会等で発表し、現在雑誌論文として発表する為の準備をしている段階である。
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