本研究の目的は、拡大性や擬軌道追跡性の様な性質を持つ離散力学系の理論的研究を行い、多くの力学系の振る舞いを理解する上で必要となる位相的理論を構築することであった。この研究目的達成のために、拡大性と擬軌道追跡性を持つ同相写像(Anosov微分同相写像)の分類、そして、コンパクト多様体の上の既約変換の力学系と拡大性との間の関係、の二つの問題を中心に据え、研究を進めた。 本研究では、Aosov微分同相写像の分類に関連して1970年に米国のJ.Franksが提起したπ_1微分同相写像の分類の問題を解決し、すべてのπ_1微分同相写像はInfra-nilmanifold同型写像と位相共役であるという結果を得た。この結果を証明する段階で、既約変換の力学系について考察し、普遍被覆空間の幾何学的増加率を計算した。さらに安定および不安定葉相構造の線形性に関する定理を証明することが出来た。この研究成果より、本研究で解決を目指していた高い余次元のAnosov微分同相写像の分類の問題について決定的な解決の方法が得られた。特に、余次元1のAnosov微分同相写像については、J.Franks等による研究により一般のコンパクト多様体上での線形化の結果が知られていたが、本研究から著しく簡単な証明を見出すことが出来た。また、余次元1のAnosov微分写像についての類似する結果を得た。余次元が高い場合のAnosov微分同相写像を実際に分類することは今後の課題として残されたが、本研究の成果からこの問題も解決出来ると考えている。
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