研究目的はリーマン面上のパラボリック構造を持つベクトル束およびヒッグス束のモジュライ空間のトポロジーを調べることであった。パラボリック構造を動かしたときに、ベクトル束のモジュライ空間のトポロジーは有限個の不連続点を除いて局所的に一定であるが、ヒッグス束のモジュライ空間のトポロジーは常に一定である。我々の基本的な立場は、パラボリック構造によらないより普遍的な後者を調べ、さらに前者と後者の関係をより深く調べることにより、パラボリックベクトル束のモジュライ空間の構造を研究することであった。この3年計画の研究の1年目として、我々はその有限次元の類似物を考えることにした。パラボリック束のモジュライ空間の類似物をコンパクトなトーリック多様体としたとき、ヒッグスのモジュライ空間に相当するものはある超ケーラートーリック多様体である、という観察を行い、これらを調べた。実際初めに選んだトーリック多様体は、あるパラメータを動かすとそのトポロジーは有限個の不連続点を除いて一定になるが、これに対応する超ケーラートリック多様体はパラメーターの変化に対して安定である。さらに我々はコンパクトなトーリック多様体の量子コホモロジーがこのパラメーターに対しほぼ安定な振る舞いをすることに注目し、このこととの関係も調べはじめた。今年度は具体例のな計算が中心であった。この有限次元の類似物とベクトル束のモジュライ空間との差は前者がアーベル群の商空間として得られるのに対し、後者は非アーベル群の商として得られることと考えられる。この差が実際にどのぐらい深刻なものであるかを理解することが次の課題と思われる。
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