研究概要 |
1. 局所有限な可算無限ネットワーク上で偏差分方程式の解の性質を研究する際に,無限遠点の影響を考察することが必要である。無限遠点をポテンシャル論的に細かく設定し,その効果を調べることが理想境界論の中心的な課題である。本研究では,離散マルチン境界論に対比すべき離散倉持境界論の構築を行った。すなわち,リーマン面の倉持境界に関する倉持-大津賀の理論をモデルにして,離散倉持関数が連続的に延長できる空間として,無限ネットワークの倉持完閉化と倉持境界を構成し,倉持境界点の分類及び離散倉持ポテンシャルとSHS関数の境界挙動について考察した。 2. 非線形離散倉持境界論についての研究では,非線形倉持関数及び非線形倉持境界を構成した。非線形倉持ポテンシャルの性質については満足すべき結果は得られなかった。 3. 無限ネットワークを有限ネットワークの列で近似するとき,有限ネットワークでの離散倉持関数の列が無限ネットワークの離散倉持関数に収束することを証明した。数値実験等を行う際に,この近似定理は有効となる。 4. ネットワーク上でHardyの不等式を研究する際に,倉持関数の性質を応用できることを示した。すなわち,離散ラブラシアンの重み付き固有値問題を研究する際に,最小固有値に関する情報が重要である。ネットワークの節点数が大きくなると計算機で最小固有値を直接に計算する方法には限界がある。直接計算ではなく,重みによる倉持ポテンシャルの大きさを用いて,最小固有値を評価する方法を提案した。 5. 従来のネットワーク理論ではポテンシャルやフローの値域が実数空間であったが,これをヒルベルト空間に置き換えることによって,重層構造をもつ極値問題の研究の足がかりを得るために,ヒルベルトネットワークについての研究を行った。
|