本研究において、特異摂動型反応拡散系にたいする定常問題の多次元内部遷移層解の研究を行った。その研究実績の概要は以下の通りである。 まず、自由境界問題の解Fの存在を仮定じで、そのFを界面とするような内部遷移層解が存在することを示した。この際、多次元領域における内部遷移層の漸近展開に関する一般的な手法を確立した。さらに界面上の楕円型方程式系を導き、この方程式系の解の存在と内部遷移層解の存在が同値であることを示した。この課程のなかで、自由境界問題の解Fが内部遷移層解の界面になりうる為の一つの十分条件としての非退化条件を、界面上の一階(非局所)楕円型作用素の可逆性として特徴付けた。また、高い対称性を持つ領域(例えば、高次元円盤やダンベルの表面など)においては、実際に自由境界問題の解Fを構成し、上記の一般論を適用して、内部遷移層解の存在とその安定性(実は不安定)を示した。ただし、上記の議論が一般的に通用するためには、非線形項に起因する或る量が正であることを必要とした。この量が負の場合には、特異摂動パラメターが零に収束する時、無限回の定常分岐現象が起こり、内部遷移届解の存在様態は特異、極限において無限のオーダーで縮退した、極めて複雑な様相を呈することを示唆する結果を得た。高次の対称性を持たない領域における自由境界問題の研究は、その非局所的な性格から、一般的な定式化さえ未だ確立されておらず、今後の大きな課題でもある。 さらに、上記の定常開題と関連して、時間発展問題にたいする界面方程式の漸近屈開を行い、その力学系的意義を明らかにした。即ち、従来から界面方程式として活発に研究されてきた、相分離界面の運動を記述する方程式系が、C^1_-接合条件の漸近展開の最低次の部分と一致することを示し、無限次元力学系の観点から眺めると、この界面方程式は反応拡散方程式系の解の住む相空間のある不変集合上の流れの近似方程式として捉えられることを示した。この視点から、上記の定常問題の解の性質がさらに詳細に把握でき、今後の研究の方向性が明確になった。
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