時間遅れを含む数理生物モデルのパーシステンスとカオス

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09640256
• 研究機関: 静岡大学
• 研究代表者: 竹内 康博 静岡大学, 工学部, 教授 (20126783)
• キーワード: 数理生物モデル / パーシステンス / カオス / 時間遅れ

研究概要

本研究の目的は数理生物学において基本的な概念であるパーシステンスが時間遅れの導入によりどのような影響を受けるかを調べるとともに、カオス現象を解析し、時間遅れをもった数理生物モデルの解析手法を確立することである。特に(1)生物の増殖プロセスと物質のリサイクリングプロセスに時間遅れを導入したケモスタットモデル;(2)伝染病の非感染者が保菌者から感染者に移行するプロセスに時間遅れを考慮した疫学モデル;(3)赤血球に薬物を閉じこめて患者に注射し、マクロファージが赤血球を食するための時間遅れを利用して薬物の投与効果を長時間持続させる医学上の方法についてのモデルを考察する。
昨年度は数理モデル(2)と(3)のパーシステンスに対する時間遅れの影響をまとめ、さらに時間遅れをもった数理生物モデルの大域的安定性に対する解析手法を確立した。得られた具体的な研究実績の概要は以下の通りであった。
1. モデル(3)で、薬物の効果が長く持続するような赤血球の齢分布を決定した(11の論文1)。
2. 差分・微分不等式を証明し、非線形の遅れ型・中立型関数微分方程式系の安定性解析に応用した(論文4)。特に遅れ型を中立型に変換し安定性解析を見通しよくし、個体群力学系を解析した(論文3, 5,6)。
3. 上記2の方法をモデル(2)の解析に用いた(論文2,7)。
本年度は
1. 上記2の方法を拡張したモデル(2)に適用した(論文8,9)。
2. さらに同手法を2つのニューロンをもっニューラルネットワークに適用し、その安定性に対する時間遅れの影響を考察し現在投稿中である。
来年度はモデル(1)を考察するとともに、時間遅れがモデルの安定性に影響を与えない条件についてイタリアのベレッタ教授との共同研究を予定している。

研究成果

• [文献書誌] E.Beretta: "A mathematical model for drug administration by using the phagocytosis of red blood cells" J.Math.Biology. 35. 1-19 (1996)
• [文献書誌] E.Beretta: "Convergence results in SIR epidemic models with varying population sizes" Nonlinear Analysis Theory,Methods & Anal.28・12. 1909-1921 (1997)
• [文献書誌] W.B.Ma: "Stability analysis on neutral differential difference systems and population dynamics" 静岡大学大学院電子科学研究科研究報告. 18. 57-64 (1997)
• [文献書誌] W.B.Ma: "Stability of neutral differential difference systems with infinite delays" Nonlinear Analysis Theorey, Methods & Anal.33・4. 367-390 (1998)
• [文献書誌] Y.Takeuchi: "Global attractivity of mixed Lotka-Volterra differntial systems with delays" Canadian Applied Mathematics Quarterly. 6・3. 245-267 (1998)
• [文献書誌] W.B.Ma: "Stability analysis on a Predator-prey system with distributed delay" J.Computational and Applied Math.88. 79-94 (1998)
• [文献書誌] Y.Takeuchi: "Delay effect on global asymptotic properties of SIR epidemic models" Proceeding of International Conf.Math.Biol.'97. 247-252 (1998)
• [文献書誌] Y.Takeuchi: "Global asymptotic properties of a delay SIR epidemic model with finite incubation times" Nonlinear Analysis Theory,Methods & Appl.(印刷中).
• [文献書誌] Y.Takeuchi: "Stability analysis of a delayed SIR epidemic model with density dependent birth process" Dynamics of Conti,Discrete and Impulsive Systems. (印刷中).