研究概要 |
N体問題に代表されるHamilton系 H=T(p)+V(q)を数値積分する最も原始的,かつ単純なスキームはオイラー法であるが,オイラー法では相空間の面積要素(symplectic 2-form)が一般に保存されず t=0の(q,p)からt=tの(q′,p′)への変換が正準変換とはならない.そして,保存すべきエネルギー値の誤差がsecularに増大し,長時間の数値計算の結果の信頼性を失わせる.この事情は局所的な誤差を小さくするRunge-Kutta型の積分法,および従来の多段型の積分法においても同様である.シンプレクティック数値解法は(q,p)から(q′,p′)への変換が厳密に正準変換(シンプレクティック変換)となるように設計された積分法である.シンプレクティック数値解法に対して今年度我々は次の点を明らかにした. 1:ケプラー運動などの積分可能系においてはハミルトニアン以外の保存量が存在するが,これらが数値解法によってよく保存されるかが問題となる.この保存量に対する形式的なべき級数を,1次のシンプレクティック解法に対して求めた.高次の解法については未解決である. 2.Symplectic Integratorの応用において一つのネックとなっていた可変時間ステップにおいて,Hut et al(1993)によって示唆されたように,時間ステップをスキーム全体の可逆性を保つように決定すればエネルギーの誤差に長年的な誤差が現れないことを確認した.
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