本研究の目的である、ビッグ・バンで合成された始原物質からなる宇宙最初の恒星、種族IIIの生き残りを探索方法についての最大の問題点は、これまでの探索の努力にもかかわらず、[Fe/H]=-4の金属欠乏星がまったく発見されていないことである。昨年度、これまでの計算を拡張して、所期の金属量と質量の関数として進化の特徴を明らかにした。本年度は、その結果に踏まえて、これまでの捜索で観測されていると種族III星との観測的な相違を明らかにし、これまでの捜索の限界を検討し、新たな探索の方法に到達した。 その結果は、金属欠乏星は水平分枝の段階では青くなるのに対し、種族III星はヘリウムフラッシュの段階で表面の炭素と窒素の量が太陽値以上になるため、その後は表面温度が上がらず、これまでのCaIIのHK線による捜索にはかからないこと、また、主系列星の場合は、表面温度は高いが光度が低いため、銀河円盤の近傍のものしか観測にかからず、金属を含むガス雲との遭遇による金属汚染が問題であり、実際観測的にも、明るい巨星に比して主系列星の金属量が多いという傾向が確認されることを明らかにした。また、種族III星の炭素星は窒素過多になっていて、これが探索の手がかりになることを示した。 これらの結果、進化し高光度になった種族III星は早期型炭素星の内CN過多のものに含まれているので、捜索には炭素やシアンの分子線を使う方がより有効であるとの結論に達した。 この結論に基づいて、これらの分子線を含む波長領域3800Aから4800Aに感度を有する干渉フィルターを作成し、東大の木曾観測所でシュミット望遠鏡を用いて捜索の作業を進めている。 これらの理論的な結果は、レター論文として発表するとともに、進化計算および観測方法についての論文は現在投稿中である。
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