研究概要 |
イソシアン化水素HNCの生成熱は、シアン化水素HCNに比べて15kcal/molほど大きい。従って、HNCとHCNが宇宙において熱力学的平衡状態にあるとすれば、両者の存在比は、例えば100Kにおいて、[HNC]/[HCN]=10^<-33>と予想される。しかし、観測結果は熱力学的な予想値よりも遙かに大きく、濃度比[HNC]/[HCN]は0.01〜4.4の範囲にわたることが分かっている。宇宙におけるHCN及びHNCの生成機構に関しては、(a)プロトン化した化学種HCNH^+と電子との再結合反応による生成、(b)C^+とNH_3との反応によりCNH_2^+が生成し、これが電子と再結合して選択的にHNCが生成する、という説があるが、これらは未だ検証されていない。 本研究は、星間塵を反応場とする固相反応も含めて、HCN及びHNCの生成機構を実験的に検証することを目的とする。今年度は、固相反応によるHNC,HCN生成機構を検証することを目的として、ラジカル・表面反応/フーリエ変換赤外分光測定装置の製作を完了した。即ち、10^<-10>Torrまで排気可能な超高真空排気装置に、極低温冷凍機、ラジカル発生装置、四重極質量分析計、フーリエ変換赤外分光装置を取り付けた。シリコン基板からなる試料蒸着板に、N_2及びCO混合ガスを放電分解し活性種を蒸着した。この固体状活性種を水素原子と反応させ、生成物の昇温脱離質量スペクトルを測定したところ、HCN、HNC及び(CN)_2が生成していることが分かった。しかし、HNC及びHCNの脱離温度に差がなく、両者の定量が困難であることが分かった。そこで、現在フーリエ変換赤外分光法を用いて、吸収スペクトルの相違を利用してHCN,HNCの定性・定量分析を行っている。
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