研究概要 |
平成9〜10年度の2年間、すばる望遠鏡の第一期観測装置であるOH夜光除去分光器の開発と、そのカメラ部分である赤外線撮像分光器CISCOの開発を行なった。特に、本研究においては、CISCO内部のフィルター/分散素子ホイール部に装着する、低分散多天体分光用のツェンガープリズムの製作と、国内での試験観測を通しての性能評価を行なった。この新しい観測手法に対するこれまでの試験及び試験観測結果の概要は以下の通りである。 ・日本国内での赤外線シミュレータ望遠鏡を用いた試験観測により、多天体分光モードでの高赤方偏移クェーサーの水素原子輝線の検出に成功し、多天体分光モードの性能を実証する事ができた。 ・スリットを使わないこの観測モードでは、望遠鏡の解像度(イメージサイズ)が波長分解能に直接影響するため、すばる望遠鏡の結像性能がこの観測手法の成否にかかっていたが、今年1月の CISCOを用いたすばる望遠鏡での試験観測によって、望遠鏡状態が不完全ながらも最高分解能0.2 arcsecを確認でき、この多天体分光モードが当初予測していた以上の性能を発揮できることを確認することができた。 ・ずばる望遠鏡に取り付けた際の多天体分光モードでのシステム効率(検出器の量子効率を含む)は30%程度と、複雑な光学系を持つ通常の赤外線分光観測装置に比べて非常に高い値であることが確認でき、多天体分光モードの検出限界としては当初目標としていた1時間露出で21mag(波長2.1μm,S/N=5)を十分達成できる感触を得た。 今後、今年夏まで続く望遠鏡立ち上げ期間の間に、B3 0731+438,B3 0919+381等の電波銀河周辺や、Subaru Deep FieldなどのBlank fieldでの、高赤方偏移水素原子輝線を利用したクラスター探査を予定している。望遠鏡自体の試験観測を兼ねたこれらの観測を通して、可視光や赤外線での多色測光を中心としたこれまでの観測方法では検出できなかった、新しい高赤方偏移クラスターの発見と、初めての「赤外線多天体分光」という観測手法による赤方偏移2を越える宇宙での活発な銀河形成の様子を解明していく予定である。
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