本研究では、薄膜結晶を使った全く新しいX線分光器を考案し、その動作を実験で確かめた.このX線分光器は、高い分解能とある程度のバンドを同時に持つことができる。現状で分解能E/(δE)>1400、バンド幅ΔE>13eVを達成した。これにより、Ti K α_1とTi Kα_2を同時に分光検出することに成功した.X線の分光器は、回折格子とブラッグ反射を使った結晶分光器に大別できる.回折格子はE/(δE)>1000程度の分光能力を持ち、広いバンド幅にわたり一挙に分光することが可能である.しかし、欠点は刻印数に技術的な限度(10000本/mm程度)があるために、X線の場合は斜入射でしか、また、低エネルギーでしか使えないという問題がある.また、刻印精度の技術的な限界から、非分光成分を消すことはたいへん難しい.さらに、斜入射で使うと、0次光からの散乱を大きく受けてしまう.一方、ブラッグ反射を使った分光器では、分解能をE/(δE)>10000することも困難ではないし、高エネルギーで、大きな入射角でも使用が可能である.しかし、ブラッグ条件を使うため、分光器というよりは本質的には狭帯域フィルター(モノクロメーター)と言うべきである.もちろん、湾曲させた結晶を用いる等の工夫もできるが、その場合でも、結晶の一部に着目すればやはりモノクロメーターであり、ブラッグ条件を満足しない波長のX線はすべて捨ててしまう.だから、あるバンドを測定するには大変な時間を必要とする.そこで、両者の良いとこ取りを目指して考案したのが、薄膜結晶を使った分光器である.先に書いたように、この研究で新しい薄膜結晶を使った分光器の動作を確認することができた.さらにもう少し研究を進めることにより高分解能、高効率の分光素子として実用できるであろう.
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