我々は昨年度、おうし座分子雲内部の階層構造において、星を直接生み出す分子雲コアよりも小さな微細構造が卓越しているという事実を明らかにした。本年度は、この微細構造が異なる質量の星を生み出している分子雲間でどのように変わるかを調べる目的で、三つの代表的な星生成分子雲について、国立天文台野辺山の新25マルチビームシステム(BEARS)を搭載した45m望遠鏡で、高分解能・広域マッピングを行い、昨年度開発した分子雲マッピングデータ解析システム(BMAS)を用いて解析を行った。主な成果は以下の通りである。 1. 分子雲マッピングデータ解析システム(BMAS)の高機能化。 昨年度開発したBMASについて、今年度はBEARSで取得した大容量・高品質データを解析することにより、バグフィクスと効率化・高速化を行った。さらに、階層構造の解析に必須のスペグトル解析を含む統計解析ツールを組み込んだ。 2. 異なる質量の星を生み出している分子雲間での階層構造の比較研究。 本年度はBEARSによって、小質量星生成領域のおうし座分子雲、中小質量星生成領域のへびつかい座分子雲、大中小質量星生成領域のオリオン座分子雲について、高分解能・広域マッピングを行った。現時点での成果として、おうし座分子雲では、低密度ガスと高密度ガスとで分布の違いが見られ、原始星の進化を決める新たな指標を発見した。へびつかい座分子雲では、我々を含むグループが赤外線天文衛星ISOを用いて観測したイメージとの比較から、分子雲コアのかなり初期の段階での進化が明らかになった。さらに、オリオン座分子雲では、従来議論されてきたフィラメント構造はさらに細いフィラメントで構成され、おうし座と同様にフィラメント内部には微細構造が存在していることが明らかになった。今後、分子雲間で共通な性質と異なる性質を明確にし、生成される星の質量との相関を調べる予定である。
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