本研究の目的は、星形成の母体である分子雲内部に普遍的に見られる複雑な階層構造の物理的性質と星形成におよぼす影響を観測的に明らかにすることにある。我々は、国立天文台野辺山の45m鏡マルチビームシステム(BEARS)を用いて、異なる質量の星を生み出している代表的な星生成分子雲(おうし座、オリオン座、へびつかい座)について、分子雲全体の広がりから分子雲コアにまで至る、2桁にもわたる空間スケールを高分解能で一様にカバーした高品質のマッピングを行い、比較研究を行ってきた。主な成果は以下の通りである。 1. BEARSによる分子雲マッピングデー夕用解析システム(BMAS)の開発。 BEARSによる広域・高分解能マップデータに対応でき、その大容量データを効率よく解析できるデータ解析システム(BMAS)を、対話的データ解析言語IDLを用いて開発した。BEARSで実際に取得したデータを解析することで、高速化を行いつつ、基本的な解析ツールから高度な統計解析ツールまでを組み込んだ。 2. 分子雲内部に見られる卓越した微細構造の発見。 我々は、BMASによるBEARSマップデータの解析から、分子雲内部の階層構造には星形成の直接の母体である分子雲コアよりも微細な構造(クランプ)が卓越し、それらの離合集散によって階層構造が形成されているという新事実を明らかにした。さらに、小質量星生成領域のおうし座分子雲では、高密度ガスの空間分布に基づく原始星の進化を決める新たな指標を発見した。中小質量星生成領域のへびつかい座分子雲では、赤外線天文衛星ISOによるイメージとの比較から、分子雲コアの初期段階での進化を明らかにした。大中小質量星生成領域のオリオン座分子雲では、これまで知られているフィラメントはさらに細いサブフィラメントで構成されていることが明らかになった。現在も解析は進行中である。
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