研究概要 |
様々な温度・密度での核物質の相とその転移の研究は重イオン物理の最大の目的のひとつである。このうち重イオン反応でみられる核物質の液相・気相(LG)相転移は、古典統計性をもつ気相から量子統計性の強い液相への転移が動的に起こることにより多重破砕を引き起こすと考えられている。しかしながら、分子動力学などのシミュレーションは多くの場合、模型自体の持つ統計性が古典的であるため、核物質のLG相転移を記述するには不十分である。 我々は波束がもつエネルギーの揺らぎを考慮にいれた波束の量子統計力学を構築し、非平衡状態では動的に量子統計平衡に近付くべし、という要請に基づいた揺らぎを含む分子動力学(量子ランジュバン法)を提案している。本年度は、この量子ランジュバン法に基づき、次のような課題についての研究を行ってきた。 (1)波束動力学の統計的性質…(A.O.and J.Randrup,Ann,Phys.(N.Y.)253(1997),pp279-309.). (2)重イオン反応での多重破砕…(A.O.and J.Randrup,Phys.Lett.B394(1997),pp260-268.) (3)マイクロクラスターの生成…(A.O.and J.Randrup,Phys.Rev.A55(1997),pp3315-3318R.) 静止Ξ-粒子からのハイパー核破片生成…(Y.Hirata et al.,submitted.) これらの研究において、(1)低温でE^*∝T^2、高温でE^*=3T/2+bという原子核の望ましいカロリー曲線が得られること、(2)LG相転移が平衡状態ではフラグメントの質量数分布に、重イオン反応では低励起フラグメントの増加として現れ、多重破砕の記述を大きく改善すること、などを示してきた。また、(3)、(4)などの異なるエネルギー領域にもこの量子ランジュバン法を適用し、量子揺らぎが臨界的性質の変化や軽いハイパー核のfissionなどに大きく影響する可能性があることを示した。なお、上述の論文以外にストレンジネス核の物理についての論文が2編、本年度口頭発表の国際会議報告が8編ある。
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