様々な温度・密度での核物質の相とその転移の研究は重イオン物理の最大の目的のひとつである。こうした相の研究は、それぞれの温度・密度領域における有効な自由度、相互作用、状態の記述、統計的性質、動力学という様々な要素の理解を必要とする。本研究はこれらのうち、系の平衡状態での統計的性質、あるいは物質の相転移(核物質の液相・気相相転移)の性質がフラグメント生成過程に与える影響に注目したものである。 本研究において、我々は波束の統計力学を記述する方法を開発し、これを発展させて量子揺らぎを取り入れて系の量子平衡状態への緩和を動的に記述し得る分子動力学(量子ランジュバン法)を提案した。また、量子ランジュバン法を適用して、「重イオン反応での多重破砕」、「マイクロクラスターの生成」、「静止Ξ^-粒子からのハイパー核破片生成」、などの現象の理解を進め、この特徴をモデル化し、「高エネルギー陽子入射反応における異常なフラグメント角分布」についての分析も行った。これと並行して、核物質の相転移に関連する研究として、ハイパー核物理・相対論的重イオン反応についての研究も進めることができた。 破砕過程における量子揺らぎの効果の研究を通じて、(1)量子論的な揺らぎを取り入れることにより、輸送模型の範囲内での系の統計的性質が劇的に改善されること、(2)このような改善により、輸送模型の範囲内で広いエネルギー領域の核反応での低励起状態のフラグメント生成が動的に記述可能となること、(3)動的なフラグメント生成は、通常の統計的な過程と比較すると早い時点で起こる、(4)このため複雑な統計過程で生成されるフラグメントにも残留核(あるいは複合核)の静止系での角分布に異方性が起こりうる、などの点が明らかになった。これらの成果は12編の原著論文(投稿中1編を含む)と15編の国際会議報告として発表されており、また博士論文(平田雄一、2001年3月学位取得)としてまとめられた内容についても投稿準備中である。
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