この研究の目標は、非可換空間上での場の理論を構成することにある。平成11年度には、9、10年度に引き続き非可換空間の例として、非可換球面を取り上げその上での場の理論の構成の研究を行った。非可換球面は、球面の関数代数を量子化することによって得られる空間である。このような空間上の微分幾何学を構成のひとつの答を我々は与え、この結果のディラック作用素を使いConnesの意味での非可換微分幾何学を構成し、実際に非可換球面上のスカラー場の作用、またU(1)ゲージ場の作用を書き下した。さらに、この様にして構成された場の理論の可換極限との対応を調べた。特に、ゲージ理論においては、可換な理論には現れない種類の項が現れることが分かった。その構造を分析することにより、非可換球面へ拡張されたゲージ理論の分類とその可換極限との対応を解明することができた。 一方、反対称テンソル場の下で、トーラスにまきついたD-braneが非可換性を示すことが知られている。平坦な時空であるトーラス以外で、D-braneが非可換性を示す例を構成し、その性質を調べることは、弦理論と非可換幾何学との関係を調べる上で興味深い問題である。石川は、このような観点から、群多様体上のD-braneを調べ、boundary stateの解析から、群がSU(2)の場合のworldvolumeの具体的な形状を決定した(綿村との共同研究)。特に、群多様体の体積が有限の場合、弦の効果により、D-braneが拡がりを持つことを示した(論文執筆中)。群多様体上のD-braneも非可換性を示すことが知られており、我々の結果はD-braneの「拡がり」と非可換性との関係を示唆するものと考えられる。
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